熱中症対策で到達した極論は「背負わないこと」

自転車通勤を始めて、15年以上が経ちました。

その歴史は、夏場の「気温」との戦いの歴史でもありました。 冬の寒さはわりと平気なのですが、夏の暑さは昔から大の苦手でした。

水分補給のタイミングを変えてみたり、冷感インナーを重ね着したり、バッグと身体の接触面積を抑える工夫をしたり、クールリングを着けてみたり。そのたびに一定の手応えは感じるものの、日本の過酷な猛暑の前では気休めにしかなりませんでした。

そうやって試行錯誤を繰り返した末に、結局どんな対策を講じたとて「背中をリュックで塞がないことに勝るものはない」という暴論とも言える極論にたどり着きました。

正直言うと、この結論にはかなり早い段階で薄々気付いてはいたのですが、認めたくなかったのだと思います。この思い切ったスタイルに振り切るまでに様々な葛藤もありました。収納力だったり安心感だったり、捨てなければならないものも出てきます。

nishina

悔しいけどリュックって便利なんですよね…

襲い来る「熱」の正体を知る

まず、夏の自転車通勤における「熱」の脅威は、外気温だけの問題ではありません。

運動によって体の内側から熱が発生し、それが背中にじわじわと蓄積していく。信号待ちで止まった瞬間に、背中から一気に熱気が押し返してくるあの感覚。走っている間はまだ風があるぶんマシですが、止まると一瞬で地獄と化します。

熱中症は「体の深部体温が上がりすぎること」で起きます。日射しや気温だけでなく、運動による発熱と、それを逃がせない環境が重なったときが本当に危険。

背中に荷物を背負った自転車通勤は、その条件を揃えやすい状況とも言えます。

背中は体温を逃がすラジエーターである

人間の体は、汗をかいて気化させることで体温を下げています。汗が蒸発するときに熱を奪う「気化熱」です。

夏の暑さに対して「汗をかくこと」を防ごうと考える人もいますが、それは正解とは言えません。そもそも、体温が上がった時に人間が汗をかくのは、この気化熱によってその体温を下げるための前準備だからです。

そして背中は、体の中でも特に表面積が広く、多くの汗腺が存在します。背中にかいた汗が走行中の風を受けることで、効率よく熱を奪って気化してくれます。いわばラジエーターのような役割を果たしている訳ですね。

そこをリュックで覆ってしまうということは、そのラジエーターに蓋をするようなものです。熱は逃げ場を失い、内側に蓄積されていく。どれだけ高機能な素材であっても、密着している限り物理的な限界があります。

nishina

問題なのは「汗をかく状況」ではなく「汗を気化させられない状況」です

「背中の通気性を確保する」 ことこそが、夏の自転車通勤における最大の「熱中症対策」とも言えると思います。

フロントバッグへの移行

では「背負わない」と決めたとき、次の問題は「荷物をどこに置くか」です。

私が現在使っているのは、ハンドルバーに装着するフロントバッグです。TOPEAKのTUBULAR BARBAGというモデルで、コンパクトながら通勤の荷物を収めるには十分な容量があります。

最大のメリットは、走行中の風がダイレクトに体を冷やしてくれることです。 背中に風が抜ける感覚は、一度味わうともうリュック生活には戻れません。 また、重い荷物を肩で支えなくて済むため、上半身の疲労がかなり軽減されます。 信号待ちなどでもすぐにバッグの中身にアクセスできる利便性は、フロントバッグならではの強みです。

ただし、このスタイルには無視できない制約があります。 それは「収納力」の限界です。

当然ながら、フロントバッグにノートPCやA4サイズの書類を収めるのは不可能です。 無理に大きなバッグをハンドルに付けると、ハンドリングに悪影響を及ぼし、走行の安全性も損なわれます。

収納力と安心感を捨てる覚悟

フロントバッグに移行する上で、最初に手放さなければならないのは「なんでも入れられる安心感」です。

リュックはある意味で「保険」みたいなものです。念のため持ち歩くものを詰め込んでも、なんとかなる。その安心感は、実際には荷物の重さと背中の熱さとして自分にのしかかってきているわけですが、手放すのには意外と時間がかかりました。

幸い私の仕事は毎日ノートPCを持ち運ぶ必要がなく、弁当箱とタオル、小物を入れたポーチ、鍵類。その程度に絞ることができたので、フロントバッグに移行できました。

どうしてもリュックが必要な人へ

それでも、全員がフロントバッグだけで通勤できるわけではありません。

ノートPCや書類が必要な職種、荷物の多い業務、バッグを取り付けられない車種、職場の駐輪環境や、電車との併用など、人それぞれいろいろな事情があると思います。

その場合に次点でおすすめしたいのが、パニアバッグです。

リアキャリアの両脇に取り付けるこのバッグは、背中への負荷がゼロのまま高い積載性を確保できます。片側だけの使用だと左右バランスが崩れやすいという欠点はありますが、「背負わない」という目的を達成しながら実用性を維持するなら、現実的な選択肢になると思います。

それでもどうしてもリュックでなければならない場合は、背面が体から完全に浮く構造の「メッシュパネル付きバックパック」を選んでください。deuterやVAUDEなど、自転車・アウトドア専用に設計されたブランドのものが、構造の作り込みという点で信頼できます。

とはいえ、どれほど高機能なリュックでも、何も背負っていない状態の快適さには遠く及びません。あくまで「どうしても」という時の代替案です。

明日の荷物を机に並べて減らせるものを探すことから

新しいバッグをすぐに買う必要はありません。

まずは、自分の通勤バッグの中身を精査することから始めてみてください。

「これ、本当に毎日持ち歩く必要があるのか?」と、携行する荷物を最適化していくのも楽しい作業ではあります。快適な自転車通勤スタイルはミニマリズムとも通ずる部分があります。

その作業が進んだとき、初めてバッグの選択肢が見えてきます。

夏の自転車通勤を、ただ耐えるだけの時間にするか、それとも朝の爽快なひとこぎにするか。その差は、自分の背中がどれだけ自由かどうかにかかっています。

「背負わない」という選択。無理のない範囲でぜひ一度、試してみてください。

この記事を書いた人

自転車通勤歴が15年を超えてきたので
経験談をこのブログにまとめてみます